• 顎が痛いのは顎関節症?痛む場所と受診の目安を顎関節症専門医が解説

    2026年9月16日

    「口を開けると顎が痛い」
    「食事をすると耳の前が痛む」
    「朝起きると顎やこめかみが痛い」
    「片側の顎だけ痛くなった」

    このような症状があると、「顎関節症では?」と心配になる方も多いと思います。

    顎関節症では顎の痛みが代表的な症状の一つですが、実は顎が痛いからといって、すべてが顎関節症とは限りません。

    顎関節そのものが痛んでいる場合もあれば、顎を動かす筋肉に痛みが生じている場合もあります。

    また、歯や歯周組織の病気、耳や唾液腺の病気、神経に由来する痛みなどが、顎の痛みとして感じられることもあります。

    今回は、顎関節症ではどこが痛くなりやすいのか、どのような痛みなら顎関節症が疑われるのか、そしてどのタイミングで医療機関を受診したほうがよいのかについて解説します。

    顎が痛いと顎関節症なのでしょうか?

    顎関節症の代表的な症状には、

    ・顎関節や顎を動かす筋肉の痛み
    ・口が開きにくい、顎が動かしにくい
    ・口を開閉したときの顎関節の音

    などがあります。

    このうち「痛み」は、顎関節症を考えるうえで非常に重要な症状です。

    特に、

    口を開ける
    食べ物を噛む
    硬いものを食べる
    あくびをする

    といった顎の運動や機能によって、いつもの痛みが誘発されたり強くなったりする場合には、顎関節症に関連した痛みである可能性を考えます。

    しかし、痛む場所だけで顎関節症と診断することはできません。

    問診と診察によって、「どこから痛みが発生しているのか」を確認することが重要です。

    顎関節症ではどこが痛くなる?

    「顎が痛い」といっても、患者さんが指し示す場所はさまざまです。

    顎関節症に関連する痛みでは、特に次のような場所に症状が現れることがあります。

    ① 耳の前が痛い

    顎関節は、左右それぞれの耳の少し前にあります。

    耳の穴の前あたりに指を置いて口を開け閉めすると、顎関節が動くのを感じることができます。

    この部分に、

    「口を開けると痛い」
    「噛むと耳の前が痛む」
    「顎を横に動かすと痛い」

    という症状がある場合、顎関節に由来する痛みが考えられます。

    顎関節症の分類では、このような状態を「顎関節痛障害」と診断することがあります。

    ② 頬からエラの周辺が痛い

    顎関節症の痛みは、関節だけから生じるわけではありません。

    顎を動かす筋肉である「咀嚼筋」も重要です。

    特に頬から下顎の角、いわゆる「エラ」のあたりには咬筋(こうきん)という大きな筋肉があります。

    咬筋に痛みが生じると、

    「頬がだるい」
    「エラのあたりを押すと痛い」
    「食事をすると顎が疲れる」
    「朝起きると顎が重い」

    などと感じることがあります。

    顎関節が痛いと思って来院された方でも、診察してみると、実際には顎関節ではなく咀嚼筋の痛みが主体である場合があります。

    ③ こめかみが痛い

    顎を動かす咀嚼筋の一つに「側頭筋」があります。

    側頭筋は頭の側面、こめかみ付近に広く存在しています。

    そのため咀嚼筋に関連した痛みを、

    「顎ではなく、こめかみが痛い」

    と感じることがあります。

    頭痛だと思っていた症状の一部が顎の機能と関連している場合もあります。

    ただし、こめかみの痛みには片頭痛や緊張型頭痛をはじめ、顎関節症以外の原因もあります。

    「こめかみが痛い=顎関節症」と自己判断するのではなく、痛みの性質や顎運動との関連などを確認する必要があります。

    ④ 耳の奥が痛いように感じる

    顎関節は耳のすぐ前に位置しています。

    そのため、顎関節周囲の痛みを「耳が痛い」「耳の奥が痛い」と感じる患者さんもいます。

    しかし、耳の痛みには中耳炎・外耳炎など耳そのものの疾患もあります。

    耳の症状があるからといって、すべてを顎関節症で説明できるわけではありません。

    「口を開けると痛い」は重要なポイント

    顎関節症による痛みを評価するときに、私たちが重視するポイントの一つが、

    「顎を動かすことによって痛みが変化するか」

    という点です。

    例えば、

    ・口を大きく開けると痛む
    ・食事で噛むと痛む
    ・硬いものを食べると痛みが強くなる
    ・あくびをすると痛む

    などです。

    顎関節症に関連する痛みでは、顎の運動や咀嚼によって症状が再現・増悪することが診断上重要になります。

    反対に、顎を動かしても痛みにまったく変化がない場合には、顎関節症以外の原因についても検討する必要があります。

    片側だけ顎が痛くても顎関節症?

    顎関節は左右に一つずつあります。

    そのため、顎関節症の症状は必ず左右両方に出るわけではありません。

    「右だけ痛い」
    「左の耳の前だけ痛む」

    というように、片側だけに症状が出ることもあります。

    左右差があるからといって、それだけで異常の程度を判断することはできません。

    痛む場所、顎の動き、筋肉の状態、開口量などを総合的に評価します。

    朝起きると顎が痛いのは食いしばり?

    「朝起きたときに顎が痛いから、寝ている間に歯ぎしりをしているのでしょうか?」

    という質問もよくあります。

    睡眠中の歯ぎしりや食いしばりが顎周囲への負荷に関与する場合はあります。

    しかし、

    朝、顎が痛い=必ず睡眠中に歯ぎしりをしている

    とは診断できません。

    顎関節症は複数の生物学的・心理社会的要因などが関係する疾患と考えられており、一つの原因だけですべてを説明することは困難です。

    「食いしばりが原因」
    「噛み合わせが原因」

    などと最初から原因を一つに決めつけず、症状や生活背景を含めて評価することが大切です。

    顎が痛くても顎関節症ではないことがあります

    ここは非常に重要です。

    顎や顔の周辺には、歯、筋肉、神経、耳、唾液腺など多くの組織があります。

    そのため、

    「顎が痛い=顎関節症」ではありません。

    例えば、

    ・むし歯や歯髄の炎症
    ・歯の根の周囲の炎症や膿瘍
    ・親知らず周囲の炎症
    ・耳の疾患
    ・唾液腺の疾患
    ・神経障害性疼痛
    ・一次性頭痛
    ・外傷
    ・感染症
    ・炎症性疾患

    などでも、顎やその周辺に痛みを感じることがあります。

    そのため顎関節症の診断では、「顎関節症であること」を確認すると同時に、顎関節症以外の疾患を見逃さないことが重要です。

    どのくらい痛かったら受診したほうがいい?

    顎関節症の症状の中には、時間の経過とともに軽快するものもあります。

    軽度の一時的な違和感があるからといって、すべての方に積極的な治療が必要というわけではありません。

    一方で、

    ・顎の痛みが続いている
    ・痛みが繰り返し起こる
    ・痛みが強くなってきた
    ・口が開けにくくなった
    ・食事がしにくい
    ・顎がロックして開閉しにくい
    ・日常生活に支障が出ている

    という場合には、歯科医師や医師による評価を受けることをおすすめします。

    早めの受診を考えたほうがよい症状

    顎の痛みの中には、一般的な顎関節症とは異なる疾患が隠れていることがあります。

    特に、

    ・発熱を伴う
    ・顎や顔が大きく腫れている
    ・外傷のあとから強く痛む
    ・急激に症状が悪化した
    ・口が著しく開かなくなった
    ・しびれや感覚の異常がある
    ・腫瘤を触れる
    ・通常とは異なる強い痛みが持続する

    といった場合には、自己判断で長期間様子をみず、医療機関を受診してください。

    必要に応じて、歯科口腔外科、耳鼻咽喉科、神経内科・脳神経内科など、適切な診療科との連携が必要になる場合があります。

    顎が痛いとき、どんな検査をする?

    顎関節症の診断で最も重要なのは、まず問診と診察です。

    「痛いから、とりあえずCTやMRIを撮る」というわけではありません。

    診察では、

    ・どこが痛いのか
    ・いつから痛いのか
    ・どのようなときに痛むのか
    ・顎を動かすと痛みが再現されるか
    ・口がどの程度開くか
    ・顎の動きに異常がないか
    ・顎関節を触ると痛いか
    ・咀嚼筋を触ると普段の痛みが再現されるか

    などを確認します。

    その結果、必要と判断した場合にはエックス線検査、CT、MRIなどの画像検査を検討します。

    MRIは関節円板をはじめとする軟組織の評価、CTは骨の状態を詳しく評価する場合などに有用ですが、すべての顎関節症患者さんにCTやMRIが必要なわけではありません。

    顎が痛いときに自分でできること

    軽度の顎関節症が疑われる場合には、まず顎に過剰な負担をかけないことが大切です。

    症状がある時期には、

    ・硬い食べ物を無理に噛まない
    ・ガムなどを長時間噛み続けない
    ・必要以上に大きく口を開けない
    ・日中、無意識に上下の歯を接触させ続けていないか意識する

    など、顎への負荷を減らすことを考えます。

    一方で、自己流で強く顎を押したり、無理に大きく口を開けたりすることはおすすめできません。

    症状によって適切な対応は異なります。

    顎の痛みは「どこが痛いのか」を診断することが大切です

    顎関節症という名前から、

    「顎関節そのものが悪くなって痛む病気」

    と思われがちですが、実際にはそうとは限りません。

    顎関節に痛みがある「顎関節痛障害」もあれば、咬筋や側頭筋などの咀嚼筋に痛みがある「咀嚼筋痛障害」もあります。

    さらに、顎関節症以外の病気が顎の痛みとして現れている可能性もあります。

    だからこそ、

    「顎が痛いからマウスピースを作る」

    というように治療方法を先に決めるのではなく、

    「どこが痛みの発生源なのか」
    「顎関節症なのか、それ以外の疾患なのか」

    を診断することが治療の第一歩になります。

    東京・目黒区で顎の痛み・顎関節症にお悩みの方へ

    「耳の前が痛い」
    「口を開けると顎が痛い」
    「噛むと顎が痛む」
    「朝起きると顎が疲れている」
    「顎が痛くて食事がしにくい」

    このような症状には、顎関節や咀嚼筋の問題など、さまざまな病態が考えられます。

    ノザワ歯科では、単に「顎関節症」という病名だけを見るのではなく、痛みの場所、顎の運動、咀嚼筋、顎関節などを診察し、痛みがどこから生じているのかを評価することを大切にしています。

    必要に応じて画像検査や高次医療機関との連携も検討します。

    顎の痛みが続いている方、口が開きにくくなってきた方、食事に支障が出ている方は、一度ご相談ください。

    まとめ

    顎の痛みは、顎関節症の代表的な症状の一つです。

    特に、耳の前、頬・エラ周辺、こめかみなどの痛みが、口を開ける、噛むなどの顎運動によって変化する場合には、顎関節症との関連を評価します。

    しかし、顎周辺の痛みには歯や耳、唾液腺、神経などに由来するものもあります。

    大切なのは、痛みを「顎関節症」と自己判断することではなく、痛みの発生源を適切に診断することです。

    症状が持続する場合、口が開きにくい場合、食事など日常生活に支障がある場合には、医療機関での評価をおすすめします。

    参考資料

    ・National Institute of Dental and Craniofacial Research(NIDCR)「TMD(Temporomandibular Disorders)」

    ・Schiffman E, et al. Diagnostic Criteria for Temporomandibular Disorders(DC/TMD). J Oral Facial Pain Headache. 2014.

    ・American Family Physician. Temporomandibular Disorders: Rapid Evidence Review. 2023.

    ・一般社団法人 日本顎関節学会 顎関節症に関する診療ガイドライン・病態分類

    ※本記事は一般的な医学・歯科医学情報の提供を目的とするもので、個々の患者さんの診断を行うものではありません。症状がある場合には歯科医師・医師による診察を受けてください。