• 低位舌と言われた方へ|本当にその診断は正しいのでしょうか?

    2026年6月8日

    「あなたは低位舌ですね。」

    歯科医院や矯正歯科で、このように言われた経験はありませんか。

    最近では、

    「低位舌が歯並びを悪くする」

    「低位舌が口呼吸の原因になる」

    「舌は常に上顎につけておくべき」

    という説明を受けることも少なくありません。

    しかし私は、その前に一つ確認したいことがあります。

    その低位舌は、どのように診断されたのでしょうか。


    安静時の舌は、本来見えません

    私たちが普段何もしていない時、舌は口の中にあります。

    安静位とは、

    • 口唇が自然に閉じている
    • 上下の歯が接触していない
    • 下顎が生理的安静空隙を保っている
    • 筋活動が最小限である

    状態を指します。

    この状態では、当然ながら舌は外から見えません。

    つまり、安静時の舌位は通常の口腔内診査だけでは直接観察できないのです。


    口を開けた瞬間、舌の状態は変化します

    診察で、

    「お口を開けてください」

    と言われることがあります。

    しかし口を開けた瞬間、

    下顎は下降し、

    舌骨上筋群や舌骨下筋群が活動し、

    舌骨の位置も変化します。

    それに伴い、舌の位置も変わります。

    つまり、

    診察時に見えている舌は、

    すでに安静時の舌ではありません。

    ここは非常に重要なポイントです。


    「舌が下に見える」ことと「低位舌」は同じではありません

    口を開けた時に舌が下がって見える。

    そのこと自体は珍しいことではありません。

    しかし、

    口を開けた状態で見えている舌が下にあるからといって、

    安静時にも常に舌が低い位置にあるとは限りません。

    評価対象そのものが変化した後に観察している可能性があるからです。

    もし診断を行うのであれば、

    「なぜ低位舌と判断したのか」

    「どのような機能評価を行ったのか」

    を明確にする必要があります。


    本当に診るべきなのは舌だけではありません

    舌は単独で機能している器官ではありません。

    呼吸、嚥下、発音、咀嚼、姿勢、顎関節、咬合などと密接に関係しています。

    そのため本来評価すべきなのは、

    • 鼻呼吸が成立しているか
    • 口唇閉鎖ができているか
    • 嚥下時の舌運動は正常か
    • 発音に問題はないか
    • 咬合は安定しているか
    • 顎関節に症状はないか
    • 頭位や姿勢に問題はないか
    • 頸部や口腔周囲筋に過緊張はないか

    といった機能全体です。

    舌位だけを切り取って評価することはできません。


    「舌を上顎につけましょう」が適切とは限りません

    低位舌と診断された方の中には、

    「常に舌を上顎につけてください」

    と指導を受けた方もいるでしょう。

    もちろん、その指導が有効な場合もあります。

    しかし全ての患者さんに当てはまるわけではありません。

    例えば、

    • 鼻閉がある
    • 口呼吸がある
    • 顎関節症がある
    • 噛み締めが強い
    • 頸部筋の緊張が強い

    といった状態では、

    原因を解決しないまま舌位だけを変えようとしても根本的な改善にはつながらないことがあります。

    場合によっては、口腔底や顎周囲筋への負担が増える可能性もあります。

    重要なのは、

    舌を上げることではなく、なぜその状態になっているのかを理解することです。


    「低位舌」という診断名が先行していませんか?

    診断名は便利です。

    しかし便利な言葉ほど慎重に使う必要があります。

    患者さんに必要なのは、

    診断名そのものではなく、

    なぜその機能が起きているのかという説明です。

    低位舌だからトレーニング。

    口呼吸だから口を閉じる練習。

    そのような単純な話ではないケースも少なくありません。


    当院が大切にしていること

    当院では、

    舌だけを見るのではなく、

    • 呼吸
    • 嚥下
    • 発音
    • 咀嚼
    • 咬合
    • 顎関節
    • 頭頸部姿勢
    • 筋機能

    を総合的に評価しています。

    「低位舌と言われたが納得できない」

    「舌のトレーニングを続けているが改善しない」

    「噛み締めや顎関節症も気になる」

    そのようなお悩みがある方は、一度ご相談ください。

    診断名に当てはめるのではなく、

    患者さん一人ひとりの機能を丁寧に評価することが大切だと考えています。


    まとめ

    私は低位舌という概念そのものを否定しているわけではありません。

    ただし、

    安静時には見えない舌を、

    口を開けて観察しただけで低位舌と断定することには慎重であるべきだと考えています。

    本当に診るべきなのは舌の位置だけではありません。

    呼吸、嚥下、発音、咬合、顎関節、姿勢、筋機能。

    それら全体を評価して初めて、本当の原因が見えてきます。

    もしあなたが「低位舌ですね」と言われたのであれば、

    まずはこう問いかけてみてください。

    「その低位舌は、どのように診断されたのですか?」