• 歯並びは発音に影響する?

    2026年5月6日

    発声のプロが見落としがちな「咬合」の影響を論文から解説(前編)

    歌手、声優、ナレーター、アナウンサー。
    「声」を仕事にする方ほど、

    • 舌の使い方
    • 呼吸
    • 共鳴
    • 姿勢

    には非常に敏感です。

    しかし、発声や滑舌を扱う現場で、意外なほど見落とされているものがあります。

    それが
    **「歯列・咬合(かみ合わせ)」**です。

    実は発音は、筋肉のトレーニングだけでは決まりません。

    音は、
    “口の中の構造”によって作られる物理現象だからです。

    今回は、不正咬合と発音の関連を検討した論文をもとに、

    「なぜ歯並びが発音に影響するのか」

    を、発声解剖の視点から整理していきます。

    不正咬合と発音の関係を調べた論文

    今回紹介する論文では、アラビア語母語話者100名を対象に、

    • 不正咬合 → PAR指数
    • 発音 → 構音テスト

    を用いて評価が行われました。

    その結果、

    • 約27%に発音異常
    • 多くが「distortion(歪み)」
    • 特に /s/ /z/ /ṣ/ に有意差

    が認められました。

    興味深いのは、
    「まったく発音できない」のではなく、

    • 少し空気が漏れる
    • 音がにごる
    • 子音の輪郭がぼやける

    といった、“微細なズレ”が多かったことです。

    これは、発声のプロほど敏感に感じる領域です。

    なぜ歯並びが発音に影響するのか

    発音というと、舌や喉の筋肉運動だけをイメージされがちです。

    しかし実際には、音は次の3つで決まります。

    • 舌の位置
    • 空気の流れ
    • 歯の位置

    つまり歯列は、単なる「噛むための構造」ではありません。

    👉
    **“音の通り道そのもの”**です。

    発音は「運動」ではなく「空気力学」

    ここは非常に重要です。

    例えば /s/ の音。

    この音は、

    • 舌先の位置
    • 前歯との距離
    • 気流の狭窄

    によって成立します。

    つまり、

    舌を同じように動かしていても、

    前歯の位置が変われば、
    空気の流れ方が変わり、
    最終的な音も変わります。

    これは発声学というより、
    むしろ「流体力学」に近い現象です。

    特に影響を受けやすい音とは

    論文でも有意差が出ていたのは、

    • 摩擦音(s, z)
    • 舌と歯の距離に依存する音

    でした。

    理由はシンプルです。

    👉
    気流の“精密制御”が必要だから。

    例えば、

    • 出っ歯
    • 開咬(前歯が閉じない)
    • 叢生(歯列の乱れ)

    では、空気の抜け方が変化します。

    すると、

    • 息が漏れる
    • 音が散る
    • 子音の輪郭が甘くなる

    といった変化が起こります。

    プロの耳では、

    「なんとなく抜けない」
    「倍音がまとまらない」
    「輪郭がぼやける」

    として認識されることも少なくありません。

    「舌の癖」ではなく、構造の問題かもしれない

    臨床で非常に多いのが、

    「舌の使い方の問題ですね」

    と説明されているケースです。

    もちろん、機能訓練が必要な場合もあります。

    しかし実際には、

    👉
    構造的に、その音が出しにくい状態

    になっていることがあります。

    つまり、

    努力不足でも、
    練習不足でもなく、

    “物理的条件”が原因になっていることがあるのです。

    これは、発声トレーニングだけでは改善しきれない領域でもあります。

    咬合は「唯一の原因」ではない

    ここは誤解してはいけません。

    この論文が示しているのは、

    👉
    咬合は「原因の一つ」である

    ということです。

    発音は、

    • 舌機能
    • 呼吸
    • 神経筋制御
    • 聴覚フィードバック
    • 習慣
    • 言語特性

    など、多くの因子で成立しています。

    つまり、

    歯並びだけで全てが決まるわけではありません。

    ただし逆に言えば、

    どれだけ訓練しても、
    構造的制限が残っていると、

    「あと一歩」が超えられないことがあります。

    発声を“解剖”で見るという視点

    声は、感覚だけの世界ではありません。

    • どこで空気が狭くなるか
    • どこで乱流が起こるか
    • 舌がどこに接触するか
    • 歯列がどう気流を変えるか

    これらはすべて、
    解剖学と物理学で説明できます。

    だからこそ私たちは、

    「噛み合わせ」と「発声」を
    別々に考えるべきではないと考えています。

    こんなお悩みはありませんか?

    • サ行が発音しづらい
    • 滑舌トレーニングで改善しない
    • 声が抜けにくい
    • 息が漏れる感じがする
    • 発音がこもる
    • ナレーションや歌で違和感がある

    その原因は、
    “舌癖”だけではないかもしれません。

    前編まとめ

    • 発音は“構造”に依存する
    • 歯列は音の物理条件を決める
    • 特定の音は咬合の影響を受けやすい
    • 舌癖ではなく、構造的問題のこともある

    次回(後編)

    後編では、

    • どんな咬合で
    • どんな音が崩れやすいのか

    さらに、

    • 歌手
    • 声優
    • ナレーター
    • アナウンサー

    など、発声のプロに臨床でどう応用するかを解説します。

    発声と咬合を“解剖”から考える歯科へ

    当院では、

    • 咬合
    • 舌位
    • 気流
    • 口腔機能

    まで含めて、発声との関係を考察しています。

    「滑舌の問題だと思っていた」
    「トレーニングだけでは改善しなかった」

    そんな方も、一度ご相談ください。