• 顎変形症は「顔」だけの問題ではありません

    2026年1月18日

    下顎頭吸収から始まる、全身機能のストーリー

    ※本シリーズの記事は、著者の臨床研究に基づいて構成されています。

    多くの方は「顎変形症」と聞くと、

    顔の形・見た目の問題を思い浮かべるかもしれません。

    しかし、私たちが臨床で見ているのは、

    それよりもずっと深いところで起きている変化です。

    顎変形症は、

    噛む・呼吸する・眠る・飲み込むといった

    「生きるための機能」そのものが、静かに壊れていく病態です。

    その中心にあるのが、下顎頭吸収です。

    最初のサインは「ほんの小さな違和感」

    下顎頭が少しずつ吸収しても、

    いきなり顔が大きく変わることはありません。

    多くの患者さんが、最初に感じるのはこんな感覚です。

    • 「写真写りが変わった気がする」
    • 「片側のほほだけ落ちた感じがする」
    • 「自撮りすると、顔が少し曲がって見える」

    とてもささいで、見過ごされやすい違和感です。

    下顎頭吸収が進むと、顔はこう変わる

    • 両側性に進行すると
       → 下顎全体が後方へ回り込み、
        オトガイが引っ込み、下顔面が短く見える
    • 片側性に進行すると
       → 顔がその側へ引っ張られ、左右差が目立つ

    これらの変化は、

    下顎頭の内部で起きている異常が、外に現れたサインです。

    顔が変われば、必ず「噛み合わせ」が崩れる

    下顎頭が削れる

    → 下顎の位置がズレる

    → 噛み合わせが変わる

    その結果、

    • 前歯が当たらなくなる
    • 片側だけで噛むようになる
    • 特定の歯・筋肉・関節に力が集中する

    という状態が生まれます。

    静かに回り続ける「悪循環」

    1. 下顎頭が少し吸収する
    2. 顎の位置がズレる
    3. 噛み合わせが偏る
    4. 偏った噛み方で、さらに下顎頭が削れる

    このループが、音もなく進行していきます。

    顎変形症が「進行性」に見える理由は、ここにあります。

    顎の痛みの正体は「骨の痛み」

    よくある訴えは、

    • 「口を開けるとズキッとする」
    • 「噛むと耳の前が響く」
    • 「朝、顎やこめかみがこわばる」

    これは単なる

    関節のクッションがすり減った痛みではありません。

    下顎頭吸収では、

    サブコンドラル骨(軟骨直下の骨)そのものが病変の中心です。

    骨に炎症が起き、血管と神経が入り込み、

    破骨細胞が出す酸が神経を直接刺激します。

    これが、骨性疼痛です。

    本当に怖いのは「呼吸」への影響

    下顎が後退すると、

    • 舌骨
    • のど周囲の筋肉

    すべてが一緒に後ろへ引き込まれます。

    その結果、上気道が狭くなる。

    特に問題になるのは、睡眠中です。

    睡眠中に起きていること

    眠っている間は、

    • 咬筋
    • 舌骨上筋群
    • 舌を支える筋肉

    すべての筋トーンが低下します。

    顎が後退している人では、

    舌が喉へ落ち込みやすくなり、気道が塞がれます。

    これが、

    • いびき
    • 睡眠時無呼吸
    • 浅い睡眠
    • 日中の強い眠気
    • 心血管リスクの上昇

    へとつながります。

    実際、顎関節トラブルのある人は、睡眠時無呼吸リスクが約2.6倍と報告されています。

    嚥下と睡眠の質も、静かに壊れていく

    下顎が不安定になる

    → 舌が前で支えられない

    → 舌根が落ち込みやすくなる

    その結果、

    • むせやすい
    • 飲み込みにくい
    • 夜の呼吸が浅い
    • 朝起きても疲れが取れない

    という状態が生まれます。

    下顎頭吸収は「全身機能のストーリー」

    下顎頭吸収は、

    顔 → 噛み合わせ → 痛み → 呼吸 → 睡眠 → 嚥下

    という流れで、

    確実に全身機能へ波及していきます。

    だからこそ、診かたを変えなければならない

    • レントゲンやCBCTで「隙間があるから大丈夫」はもう通用しない
    • 下顎頭の形・骨密度・左右差を見る
    • 顔の変化、噛み合わせの変化、過去写真も重要

    そして患者さんのこんな言葉は、

    すべて同じストーリーの一部かもしれません。

    • 「最近、顔が歪んできた」
    • 「いびきをかくようになった」
    • 「朝、全然スッキリしない」
    • 「噛み合わせが変わった気がする」

    いちばん大事な現実

    一度吸収した下顎頭を、元に戻す治療はありません。

    だから守るべきは、ただ一つ。

    「これ以上、進ませないこと」

    • 早期発見
    • 負荷の分散
    • 食いしばり・姿勢の是正
    • 顎を後ろに押し込む不適切な装置を避ける
    • 必要に応じて睡眠検査を行う

    キーワードは、

    **「スイッチをオフにする」**ことです。

    まとめ

    顎変形症と下顎頭吸収は、

    • 生まれ持った顔の設計
    • 生活習慣
    • 筋肉
    • 姿勢
    • 呼吸
    • ホルモン

    という「使い方の歴史」が積み重なって起こる、

    全身の病態です。

    この視点を持つだけで、

    • 見た目の悩み
    • いびき
    • 顎の痛み

    すべてが、ひとつの流れとして理解できるようになります。