-
顎関節症と歯ぎしり・食いしばりの関係|睡眠時無呼吸との関連も専門医が解説
2026年9月18日「歯ぎしりがあるから顎関節症になった?」
「朝起きると顎が疲れているのは、寝ている間に食いしばっているから?」
「歯ぎしりを止めれば顎関節症は治る?」
顎関節症の患者さんから、よく聞かれる質問です。
歯ぎしりや食いしばり(ブラキシズム)は、顎関節や咀嚼筋に負荷をかける可能性があり、顎関節症との関連が報告されています。
しかし、
「歯ぎしり・食いしばり=顎関節症の原因」
と単純に考えることはできません。
さらに睡眠中の歯ぎしりには、睡眠の状態や覚醒反応、呼吸などが関係することがあり、睡眠時無呼吸症候群(閉塞性睡眠時無呼吸:OSA)などの睡眠呼吸障害にも目を向ける必要があります。
今回は、顎関節症専門医の立場から、歯ぎしり・食いしばりと顎関節症、さらに睡眠・呼吸との関係について解説します。
歯ぎしり・食いしばりとは?
歯ぎしりや食いしばりは、医学的にはブラキシズムと呼ばれます。
現在は大きく、
・覚醒時ブラキシズム
・睡眠時ブラキシズム
に分けて考えます。
この2つは、単に「起きているか、寝ているか」の違いだけではなく、発生する仕組みも異なるため、分けて評価することが重要です。
覚醒時ブラキシズムとは?
起きている時間にみられる咀嚼筋活動です。
例えば、
・無意識に上下の歯を接触させる
・食いしばる
・顎に力を入れる
・下顎を一定方向に力ませる
などがあります。
パソコン作業、スマートフォン、仕事への集中、緊張などの場面で、無意識に顎に力が入っていることもあります。
本人が気づいていないことも少なくありません。
睡眠時ブラキシズムとは?
睡眠中に生じる咀嚼筋活動です。
睡眠時ブラキシズムは、睡眠中に生じるリズミカルまたは持続的な咀嚼筋活動として捉えられています。
「ギリギリ」という歯ぎしり音が出る場合もありますが、音を出さずに筋肉が活動していることもあります。
そのため、
「家族から歯ぎしりを指摘されていない=睡眠時ブラキシズムがない」
とは限りません。
歯ぎしり・食いしばりと顎関節症には関係がある?
ブラキシズムと顎関節症との関連を示す研究はあります。
近年のシステマティックレビュー・メタ解析でも、ブラキシズムが認められる人ではTMDとの関連がみられ、覚醒時ブラキシズムと睡眠時ブラキシズムの双方について関連が報告されています。
しかし、ここで注意したいのが、
「関連がある」ことと「原因である」ことは同じではない
ということです。
顎関節症は、単一の原因だけで発症する疾患ではありません。
顎関節、咀嚼筋、疼痛の感じ方、生活習慣、心理社会的要因など、複数の要因が関係します。
そのため、
「あなたは歯ぎしりをしているから顎関節症になりました」
と一つの原因だけで説明するのは適切ではありません。
なぜ食いしばりで顎が痛くなることがあるの?
食いしばりなどによって咀嚼筋の活動が長時間続けば、咬筋や側頭筋などに負担がかかる可能性があります。
例えば、
・朝起きると顎が疲れている
・咬筋が重い
・こめかみが痛い
・噛むと筋肉が痛い
といった症状がみられることがあります。
ただし、このような症状があるからといって、必ず睡眠中の歯ぎしりが原因とは限りません。
顎関節そのものの痛み、筋・筋膜性疼痛、頭痛疾患などとの鑑別も必要です。
歯がすり減っていたら歯ぎしりをしている?
歯の摩耗はブラキシズムを考える一つの情報にはなりますが、
「歯がすり減っている=現在も強い歯ぎしりをしている」
とは限りません。
歯の摩耗には過去のブラキシズム、食生活、酸による影響など、さまざまな要因が関係します。
さらに歯の摩耗は、長年にわたって蓄積された結果です。
したがって、歯の状態だけを見て現在の睡眠時ブラキシズムの程度を正確に判断することはできません。
「歯ぎしりを止めれば顎関節症が治る」とは限らない
ここも重要です。
顎関節症とブラキシズムには関連がありますが、
ブラキシズムをなくせば顎関節症が必ず治る
という単純な関係ではありません。
特に睡眠時ブラキシズムは、睡眠中に無意識に起きる筋活動です。
「寝ている間は歯を食いしばらないようにしてください」
と言われても、自分の意思だけでコントロールすることはできません。
一方、覚醒時ブラキシズムでは、日中に自分の顎の状態に気づくことが治療・管理の一つになります。
日中は「歯を離しておけばよい」?
通常、リラックスしているときには、上下の歯は常に接触しているわけではありません。
仕事やスマートフォンなどに集中しているとき、
「今、上下の歯が触れていないか」
「顎に力が入っていないか」
と気づくことは有用です。
ただし、
「絶対に歯を接触させてはいけない」
と意識しすぎることも望ましいとは限りません。
重要なのは、必要以上に顎に力が入っている状態に気づき、自然に力を抜けるようにすることです。
睡眠時無呼吸症候群と歯ぎしりには関係がある?
睡眠時ブラキシズムを考えるときに、もう一つ重要なのが睡眠と呼吸です。
閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)は、睡眠中に上気道が狭くなったり閉塞したりすることで、呼吸が繰り返し低下・停止する睡眠呼吸障害です。
睡眠時ブラキシズムとOSAが同じ患者さんに認められることがあり、両者の関係について多くの研究が行われています。
一部の研究では、無呼吸・低呼吸やそれに伴う覚醒反応と、睡眠時ブラキシズムのエピソードが時間的に近接して生じることが報告されています。
そのため、
睡眠時ブラキシズムの背景に睡眠や呼吸の問題がないか
という視点を持つことは重要です。
「睡眠時無呼吸だから歯ぎしりをする」とはまだ断定できません
ここはエビデンスを正確に理解する必要があります。
睡眠時無呼吸と睡眠時ブラキシズムの関連を示した研究がある一方で、2024年のシステマティックレビュー・メタ解析では、OSA患者で睡眠時ブラキシズムが対照群より有意に多いという結果は確認されませんでした。
研究方法や診断基準などにも違いがあり、両者の関係は単純ではありません。
したがって現時点では、
「睡眠時無呼吸症候群になると歯ぎしりが起こる」
あるいは、
「歯ぎしりは気道を開くために起きている」
とすべての患者さんについて断定することはできません。
一方で、両者が併存する患者さんがいることも事実です。
だからこそ、歯ぎしりを単に「歯だけの問題」として見るのではなく、必要に応じて睡眠・呼吸まで評価する視点が重要になります。
こんな症状があれば睡眠の評価も考えます
睡眠時ブラキシズムが疑われる患者さんで、
・大きないびきを指摘される
・睡眠中に呼吸が止まっていると言われる
・夜中に何度も目が覚める
・起床時に頭痛がある
・十分寝ても日中眠い
・起床時に口が乾燥している
などがある場合には、睡眠時無呼吸を含めた睡眠呼吸障害についても考える必要があります。
必要に応じて、睡眠医療を専門とする医療機関での検査・診断につなげます。
「歯ぎしり=ナイトガード」ではありません
歯ぎしりを指摘されると、
「ではマウスピースを作りましょう」
となることがあります。
しかし、ここでも診断が先です。
口腔内装置(スプリント)は、歯の保護や顎関節症の保存的治療など、目的に応じて使用されることがあります。
しかし、
スプリントを入れれば睡眠時ブラキシズムそのものが必ずなくなる
わけではありません。
特に睡眠時無呼吸が疑われる場合には、単に歯ぎしりだけを見て終わらず、睡眠・呼吸の評価が必要になることがあります。
顎関節症では「いつ食いしばっているか」を考える
当院では、歯ぎしり・食いしばりが疑われる場合、
「食いしばりがありますね」
だけで終わらせません。
重要なのは、
覚醒時なのか
睡眠時なのか
どのような場面で起きているのか
顎関節や咀嚼筋にどの程度影響しているのか
睡眠や呼吸に問題がないか
を考えることです。
覚醒時ブラキシズムと睡眠時ブラキシズムでは、発生する仕組みが異なるため、対応も同じではありません。
当院では顎関節だけでなく「口腔顔面機能・睡眠・呼吸」まで考えます
東京・目黒区のノザワ歯科では、日本顎関節学会専門医・口腔外科医が顎関節症の診療を行っています。
院長は顎関節症・顎変形症、咬合学に加えて、口腔顔面機能について専門的に研究してきました。
現在も東京都立大塚病院および亀田病院で、顎変形症・顎関節症の専門外来を担当しています。
口腔顔面には、
咀嚼
嚥下
呼吸
表情・感情表現
コミュニケーション
など、さまざまな機能があります。
そのため当院では、顎関節症やブラキシズムを単に「歯」や「顎関節」だけの問題として見るのではなく、
顎関節
咀嚼筋
顎運動
咬合
顎顔面形態
咀嚼
嚥下
呼吸
睡眠
などを必要に応じて評価します。
特に、睡眠時ブラキシズムが疑われ、いびき・無呼吸などを伴う場合には、睡眠時無呼吸症候群などの睡眠呼吸障害が隠れていないかという視点も重要です。
まとめ|歯ぎしり・食いしばりだけを見ないことが大切
歯ぎしり・食いしばりと顎関節症には関連があります。
しかし、
「歯ぎしり・食いしばりがあるから顎関節症になった」
と単純に一つの原因で説明することはできません。
また、ブラキシズムには、
覚醒時ブラキシズム
睡眠時ブラキシズム
があり、それぞれ分けて考える必要があります。
さらに睡眠時ブラキシズムでは、睡眠時無呼吸症候群などの睡眠呼吸障害が併存している患者さんもいるため、
歯 → 顎関節 → 咀嚼筋 → 顎運動 → 睡眠 → 呼吸
という広い視点で評価することが重要です。
「歯ぎしりがあるからマウスピースを作る」のではなく、
なぜその症状が起きているのか。
いつブラキシズムが起きているのか。
顎関節症にどの程度関係しているのか。
睡眠や呼吸に問題はないのか。
まで考える。
これが当院の顎関節症・口腔顔面機能診療で大切にしている考え方です。
よくある質問
Q. 歯ぎしりをしていると必ず顎関節症になりますか?
いいえ。ブラキシズムと顎関節症には関連が報告されていますが、歯ぎしりをする人が必ず顎関節症になるわけではありません。
Q. 朝起きたとき顎が痛いのは歯ぎしりですか?
睡眠時ブラキシズムが関係している可能性はありますが、それだけでは診断できません。顎関節や咀嚼筋などを診察して痛みの発生源を確認することが重要です。
Q. マウスピースをすれば歯ぎしりは治りますか?
口腔内装置を使用したからといって、睡眠時ブラキシズムそのものが必ずなくなるわけではありません。歯の保護や顎関節症治療など、目的を明確にして使用します。
Q. 睡眠時無呼吸症候群があると歯ぎしりが増えますか?
両者が併存したり、睡眠中の呼吸イベントとブラキシズムが時間的に関連したりすることを示した研究があります。一方、近年のメタ解析ではOSA患者全体で睡眠時ブラキシズムが有意に多いとは確認されていません。現時点では「必ず増える」とは断定できません。
Q. いびきと歯ぎしりの両方があります。どちらを治療すればいいですか?
まず、それぞれを適切に評価することが重要です。特に大きないびき、無呼吸の指摘、日中の強い眠気などがある場合には、睡眠時無呼吸について専門的な検査が必要になることがあります。
参考文献・参考資料
・National Institute of Dental and Craniofacial Research(NIDCR)「Bruxism」
・National Institute of Dental and Craniofacial Research(NIDCR)「Temporomandibular Disorders(TMDs)」
・Mortazavi N, et al. Is bruxism associated with temporomandibular joint disorders? A systematic review and meta-analysis. Evidence-Based Dentistry. 2023.
・Manfredini D, Lobbezoo F. Sleep bruxism and temporomandibular disorders: A scoping review of the literature. Journal of Dentistry. 2021.
・Błaszczyk B, et al. Sleep bruxism may be not associated with obstructive sleep apnea: A comprehensive assessment employing a systematic review and meta-analysis. Sleep Medicine Reviews. 2024.
※本記事は一般的な医学・歯科医学情報の提供を目的としており、個々の患者さんの診断・治療を行うものではありません。顎の症状や睡眠・呼吸の問題がある場合には、歯科医師・医師による診察を受けてください。