• ストレスで顎関節症になる?無意識の食いしばりについて専門医が解説

    2026年9月18日

    「仕事が忙しくなると顎が痛くなる」

    「集中していると、いつの間にか歯を食いしばっている」

    「ストレスが強い時期に顎関節症が悪化する」

    このような経験がある方は少なくありません。

    実際、ストレスなどの心理社会的要因と顎関節症には関連が報告されています。

    しかし、

    「ストレスがある=顎関節症になる」

    と単純に考えることはできません。

    顎関節症は、顎関節、咀嚼筋、顎運動、生活習慣、心理社会的要因、痛みの感じ方など、複数の要因が関係する疾患です。

    そしてストレスと顎関節症を考えるうえで重要なのが、

    無意識の食いしばり(覚醒時ブラキシズム)

    です。

    今回は、ストレス・食いしばり・顎関節症の関係について、日本顎関節学会専門医の立場から解説します。

    ストレスだけで顎関節症になるわけではありません

    以前は顎関節症について、

    「噛み合わせが悪いから」

    「歯ぎしりをしているから」

    など、一つの原因で説明されることがありました。

    しかし現在、顎関節症は多因子性の疾患として考えることが重要になっています。

    つまり、

    顎関節の状態
    咀嚼筋への負荷
    顎運動
    ブラキシズム
    睡眠
    心理社会的要因
    痛みの感じ方

    など、さまざまな要因が複雑に関係する可能性があります。

    ストレスも、その中の一つとして考える必要があります。

    したがって、

    「ストレスが原因だから気にしないようにしてください」

    だけで終わらせるのは適切ではありません。

    まず、顎関節や咀嚼筋にどのような問題が起きているのかを診断することが大切です。

    ストレスと顎関節症にはどんな関係がある?

    ストレスが強いとき、私たちの身体にはさまざまな変化が起こります。

    その一つとして、

    無意識に顎に力が入る

    ことがあります。

    例えば、

    ・仕事に集中している
    ・パソコンを長時間使っている
    ・スマートフォンを見ている
    ・車を運転している
    ・緊張している
    ・締め切りに追われている

    といった場面です。

    気がつくと、

    上下の歯を接触させている
    強く噛みしめている
    顎を固定している
    舌や口唇にも力が入っている

    ということがあります。

    このような覚醒中の咀嚼筋活動は、覚醒時ブラキシズムとして考えられます。

    「食いしばり=強く噛むこと」だけではありません

    食いしばりというと、

    「ものすごい力で歯を噛みしめる」

    イメージがあるかもしれません。

    しかし覚醒時ブラキシズムでは、強い食いしばりだけでなく、

    持続的な歯の接触
    反復する歯の接触
    顎に力を入れ続ける
    下顎を一定方向に力ませる

    といった状態も含めて考えます。

    つまり、

    弱い力でも長時間続いている

    ことが問題になる可能性があります。

    患者さん自身は、

    「私は食いしばっていません」

    と思っていても、診察中や会話中に上下の歯が接触していることもあります。

    普段、上下の歯は離れているのが基本です

    食事をしたり、飲み込んだりするとき以外、上下の歯は常に接触しているわけではありません。

    安静時には通常、上下の歯の間にわずかな空間があります。

    そのため、

    「何もしていないときにも歯が触れている」

    場合には、まずそのことに気づくことが大切です。

    食いしばりは無意識に行われていることが多いため、

    「食いしばらないように頑張る」

    というより、

    「今、顎に力が入っていないかな?」

    と自分の状態に気づくことから始めます。

    なぜ無意識の食いしばりで顎が痛くなるの?

    顎を動かす咬筋や側頭筋なども、身体のほかの筋肉と同じです。

    咀嚼筋を必要以上に長時間活動させれば、筋肉への負荷が増える可能性があります。

    その結果、

    ・頬が重い
    ・顎が疲れる
    ・こめかみが痛い
    ・食事をすると顎が疲れる
    ・口を開けると筋肉が痛い

    などの症状につながることがあります。

    ただし、

    「咬筋が痛い=必ず食いしばりが原因」

    ではありません。

    痛みの発生源が顎関節なのか、咀嚼筋なのか、それ以外なのかを診察する必要があります。

    「朝の食いしばり」と「日中の食いしばり」は分けて考える

    ブラキシズムには、

    覚醒時ブラキシズムと
    睡眠時ブラキシズム

    があります。

    この2つは同じものではありません。

    日中、仕事や緊張している場面などで無意識に顎へ力が入るのが覚醒時ブラキシズムです。

    一方、睡眠時ブラキシズムは睡眠中に生じる咀嚼筋活動で、睡眠・覚醒反応などとの関連を考える必要があります。

    したがって、

    「食いしばりがあるから全部ストレスのせい」

    と考えるのも適切ではありません。

    いつ起きているブラキシズムなのかを分けて考えることが重要です。

    ストレスをなくせば顎関節症は治る?

    これも単純ではありません。

    ストレスが症状に関係している患者さんでは、ストレスへの対処やリラクゼーションなどが症状管理に役立つことがあります。

    しかし、

    「ストレスをなくせば顎関節症が治る」

    とは限りません。

    そもそも生活からストレスを完全になくすことは現実的ではありません。

    重要なのは、

    ストレスをゼロにすることではなく、ストレスがかかったときに自分の顎や身体がどのように反応しているのかを知ること

    です。

    「食いしばらないように!」と意識しすぎないことも大切

    「歯を接触させてはいけない」

    「絶対に食いしばってはいけない」

    と一日中考え続けると、かえって顎に意識が集中してしまうことがあります。

    大切なのは、

    顎に力が入っていることに気づいたら、自然に力を抜く

    という考え方です。

    例えば仕事中に、

    「歯は離れているかな?」

    「肩に力が入っていないかな?」

    「呼吸を止めていないかな?」

    と、ときどき確認してみるのも一つの方法です。

    無意識の行動を、まず「気づける行動」に変えることが重要です。

    スマートフォンやパソコンも関係する?

    スマートフォンやパソコンそのものが顎関節症の原因というわけではありません。

    しかし、長時間集中していると、

    ・上下の歯を接触させる
    ・顎に力を入れる
    ・肩や首にも力が入る
    ・休憩が少なくなる

    といった状態になる人もいます。

    そのため、

    「スマホが悪い」

    と考えるのではなく、

    「集中しているとき、自分の顎がどうなっているか」

    を見ることが重要です。

    ストレスが関係していても「気のせい」ではありません

    顎関節症と心理社会的要因の関係を説明すると、

    「では、この痛みは気のせいなのですか?」

    と心配される方がいます。

    そうではありません。

    痛みは、組織の状態だけで決まるものではなく、神経系、睡眠、心理社会的要因など複数の要素から影響を受けます。

    これは顎関節症に限った話ではなく、慢性疼痛を考えるうえで重要な視点です。

    したがって、

    「ストレスが関係する可能性がある」ことと、「痛みが気のせいである」ことはまったく別の話です。

    顎関節・咀嚼筋など身体的な評価と、心理社会的な評価の両方を必要に応じて行うことが大切です。

    顎関節症の診察ではストレスについても聞くの?

    顎関節症の診断では、

    「顎関節がどうなっているか」

    だけを調べればよいわけではありません。

    必要に応じて、

    ・症状がいつから始まったか
    ・どんなときに悪化するか
    ・仕事中に食いしばっていないか
    ・睡眠の状態
    ・生活環境の変化
    ・痛みが日常生活に与えている影響

    なども確認します。

    これは、

    「原因をストレスに決めつけるため」ではありません。

    顎関節症を、身体だけではなく生物・心理・社会的な側面から総合的に理解するためです。

    食いしばりがあるとマウスピースが必要?

    必ずしもそうではありません。

    特に覚醒時ブラキシズムでは、

    「日中の食いしばりに気づく」

    という行動へのアプローチが重要になる場合があります。

    一方、顎関節症の病態や歯への負担などによっては、口腔内装置(スプリント)を使用することがあります。

    つまり、

    「食いしばりがある=マウスピース」

    ではありません。

    当院では、

    なぜスプリントを使用するのか

    という治療目的を明確にしてから適応を判断します。

    当院では顎関節だけでなく口腔顔面機能全体を評価します

    東京・目黒区のノザワ歯科では、日本顎関節学会専門医・口腔外科医が顎関節症の診療を行っています。

    院長は顎関節症・顎変形症、咬合学に加えて、口腔顔面機能について専門的に研究してきました。

    現在も東京都立大塚病院および亀田病院で、顎変形症・顎関節症の専門外来を担当しています。

    当院では、

    顎関節
    咀嚼筋
    顎運動
    咬合
    顎顔面形態

    だけでなく、必要に応じて、

    咀嚼
    嚥下
    呼吸
    睡眠
    表情・コミュニケーション

    など、口腔顔面機能全体を考えて診察します。

    さらに、日中の食いしばりが疑われる場合には、

    「どのような状況で顎に力が入るのか」

    という行動や生活背景にも目を向けます。

    ストレスだけを原因にするのでもなく、

    噛み合わせだけを原因にするのでもなく、

    食いしばりだけを原因にするのでもない。

    顎関節症を多面的に評価すること

    を大切にしています。

    まとめ|ストレス・食いしばり・顎関節症を一つの原因と結果で考えない

    ストレスなどの心理社会的要因と顎関節症には関連があります。

    また、ストレスや集中している状況などで、無意識に顎へ力が入り、覚醒時ブラキシズムが生じることがあります。

    しかし、

    ストレス
    ↓
    食いしばり
    ↓
    顎関節症

    という一本道で、すべての患者さんを説明することはできません。

    重要なのは、

    顎関節に問題があるのか
    咀嚼筋に問題があるのか
    日中に食いしばっているのか
    睡眠中のブラキシズムなのか
    睡眠や呼吸に問題はないか
    心理社会的要因が症状にどの程度関係しているのか

    を必要に応じて評価することです。

    そして、無意識の食いしばりがある場合には、

    まず「自分がいつ顎に力を入れているのか」に気づくこと。

    それが顎への負担を減らす第一歩になることがあります。

    よくある質問

    Q. ストレスで顎関節症になりますか?

    ストレスなどの心理社会的要因と顎関節症には関連がありますが、ストレスだけが顎関節症の原因ではありません。複数の要因を総合的に考える必要があります。

    Q. 無意識の食いしばりはどうすればわかりますか?

    仕事、スマートフォン、運転などに集中しているときに、「上下の歯が接触していないか」「顎に力が入っていないか」を時々確認してみると気づくことがあります。

    Q. 食いしばりをやめれば顎関節症は治りますか?

    食いしばりが症状に関係している場合には、負担を減らすことで改善につながる可能性があります。ただし、顎関節症には複数の病態があるため、それだけで必ず改善するとは限りません。

    Q. ストレスが原因なら精神科を受診する必要がありますか?

    ストレスとの関連があるからといって、一律に精神科受診が必要という意味ではありません。まず顎関節・咀嚼筋などを評価し、必要に応じて心理・行動面を含めた専門家との連携を検討します。

    Q. 食いしばりにはマウスピースが有効ですか?

    口腔内装置は治療選択肢の一つですが、食いしばりがある人全員に必要なわけではありません。顎関節症の病態と使用目的を明確にしたうえで適応を判断します。

    参考文献・参考資料

    ・National Institute of Dental and Craniofacial Research(NIDCR)「Temporomandibular Disorders(TMDs)」

    ・Da-Cas CD, et al. Risk factors for temporomandibular disorders: A systematic review of cohort studies. Oral Surg Oral Med Oral Pathol Oral Radiol. 2024.

    ・The relationship between psychological factors and temporomandibular disorders: a systematic review and meta-analysis. 2025.

    ・Lobbezoo F, et al. International consensus on the assessment of bruxism: Report of a work in progress. J Oral Rehabil. 2018.

    ・Updating the Bruxism Definitions: Report of an International Consensus Meeting. 2025.

    ※本記事は一般的な医学・歯科医学情報を提供するものであり、個々の患者さんの診断・治療を行うものではありません。顎の痛みや開口障害などが続く場合には、歯科医師・医師による診察を受けてください。