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光で細胞を刺激する―LUMIX 2とフォトバイオモジュレーション(PBM)の可能性
2026年9月16日「光を当てることで、細胞の働きに変化を与えることができる。」
そう聞くと、少し未来の医療のように感じるかもしれません。
これまで私は、「若返りとは何か?」という問いから、筋肉、神経、ミトコンドリア、マイオカイン、そして「噛む・話す・笑う」という顔の機能について考えてきました。
今回のキーワードは、
「光」
です。
私たちが使用している医療用レーザー「LUMIX 2」と、近年研究が進んでいるPhotobiomodulation(PBM:フォトバイオモジュレーション)。
この「光」が、神経・筋肉・ミトコンドリアというネットワークにどのように関わる可能性があるのでしょうか。
そして、「顔の若返り」を見た目だけではなく、機能から考えることはできないのか。
今回は、まだ答えの出ていない領域も含めて、その可能性を考えてみたいと思います。
レーザーは「切る・焼く」だけではない
「レーザー」と聞くと、どんなイメージを持つでしょうか。
切る。
焼く。
蒸散する。そんなイメージを持つ方も多いかもしれません。
確かに医療用レーザーには、強いエネルギーを利用して組織を切開したり、蒸散したりするものがあります。
しかし、レーザーにはそれとは異なる使い方があります。
組織を破壊するのではなく、光を細胞への刺激として利用するという考え方です。
それが、
Photobiomodulation(PBM)
フォトバイオモジュレーションです。
フォトバイオモジュレーション(PBM)とは?
PBMでは、主に赤色から近赤外領域の光について研究が行われています。
光が細胞に届くと、ミトコンドリアを含む光受容機構に影響し、
ATP、活性酸素種(ROS)、一酸化窒素(NO)、カルシウム、ミトコンドリア膜電位などに変化が起こると考えられています。
そして、その変化は細胞内だけで終わりません。
光
↓
細胞内の変化
↓
シグナル伝達
↓
転写因子
↓
遺伝子発現へとつながっていきます。
つまりPBMとは、
「光という物理的なエネルギーを、細胞が反応できる生物学的なシグナルへ変換する現象」
と考えると分かりやすいかもしれません。
「若返り研究」とPBMをつなぐミトコンドリア
ここで、またミトコンドリアが登場します。
これまでの記事でも、筋肉が収縮するために必要なエネルギーを供給する存在としてミトコンドリアについて触れてきました。
筋肉は動くためにATPを必要とします。
そのATP産生の中心を担うのがミトコンドリアです。
一方、PBMの研究でもミトコンドリアは重要な研究対象の一つです。
つまり、
老化研究 × 筋肉研究 × PBM研究
という一見異なる領域の交差点に、
「ミトコンドリア」
が存在します。
私はここに、とても興味深い可能性があると考えています。
私たちが注目している「LUMIX 2」
私たちが使用している医療用レーザーの一つが、LUMIX 2です。
LUMIX 2は、650nmの赤色レーザーと910nmの近赤外レーザーを搭載しています。
これらの光を利用してPBMを行います。
ただし、ここで非常に大切なことがあります。
「LUMIX 2を顔に照射すれば、顔が若返る」
ということが、現在の医学で確立されているわけではありません。
また、
「山中因子による部分的リプログラミングと同じような若返りが起こる」
という意味でもありません。
科学的に証明されていないことを、治療効果として断定するべきではありません。
では、なぜ私はLUMIX 2と「若返り」を一緒に考えているのでしょうか。
その理由は、
神経―筋肉―ミトコンドリア
というネットワークにあります。
「若返り」ではなく、まず「機能」から考える
例えば、噛むときに重要な「咬筋」。
咬筋は三叉神経からの信号を受けて収縮します。
筋肉が収縮するにはATPが必要であり、そのATP産生を担うのがミトコンドリアです。
さらに筋肉が活動すると、マイオカインをはじめとするさまざまなシグナルにも変化が起こります。
つまり、
神経
↓
筋肉
↓
ミトコンドリア
↓
代謝
↓
マイオカインは、別々の話ではありません。
すべてがつながった一つのシステムとして考えることができます。
「噛むこと」で咬筋の生物学的情報まで変わる?
これまで紹介した咬筋に関する研究では、咀嚼刺激が減少したマウスにおいて、咬筋重量や筋線維の大きさが減少し、さらにMyostatin、IL-6、IL-10、TNF-α、NF-κBなどに変化が認められています。
これは非常に興味深い結果です。
「噛む刺激」が減ることで、筋肉の形だけではなく、筋肉内部の生物学的なシグナルまで変化する可能性があるからです。
では逆に、
筋肉を使うこと
と、
PBMによる光刺激
を組み合わせると、何が起こるのでしょうか。
「PBM × 噛む」という新しい研究仮説
例えば、
LUMIX 2によるPBM
+
咀嚼運動という組み合わせです。
咀嚼によって、生理的な筋収縮刺激を与える。
同時にPBMによって、ミトコンドリアや細胞内シグナルに光刺激を与える。
つまり、異なる2つの入口から筋細胞へ刺激を与えるという考え方です。
そのとき、
Irisin、Apelin、Myostatin、IL-6、IL-10、GDF15などのマイオカインや関連分子はどう変化するのか。
ATP産生はどうなるのか。
ミトコンドリア機能はどうなるのか。
そして、実際の筋機能はどう変化するのか。
非常に興味深い研究テーマです。
ただし現時点で、
「LUMIX 2によって咬筋のマイオカインが若齢化する」
と証明されたわけではありません。
ここから先は、仮説を一つひとつ研究によって検証していかなければならない領域です。
筋肉だけではない。「神経」から顔を考える
私は、筋肉だけを見ていても十分ではないと考えています。
なぜなら、筋肉を動かしているのは神経だからです。
咬筋や側頭筋などの咀嚼筋には三叉神経が関わります。
口輪筋、頬筋、眼輪筋、大頬骨筋などの表情筋には顔面神経が関わります。
神経から信号が届き、神経筋接合部を介して筋肉が収縮する。
したがって、顔を一つのシステムとして考えるなら、
神経 → 神経筋接合部 → 筋肉 → ミトコンドリア
までを一つの「神経―筋ユニット」として考える必要があります。
PBMについては、末梢神経やSchwann細胞、神経損傷後の回復などを対象とした研究も行われています。
そのため今後は、
PBM
↓
神経・Schwann細胞
↓
神経筋接合部
↓
筋肉
↓
ミトコンドリア
↓
マイオカインという「神経―筋ユニット全体」への影響を検証することも、重要な研究テーマになると考えています。
「顔の若返り」とは何だろう?
ここで、最初の問いに戻ります。
「若返る」とは何でしょうか?
シワが減ること。
たるみが改善すること。
肌がきれいになること。
もちろん、それらも「若く見える」という意味では大切でしょう。
しかし、歯科医療に携わっていると、もう一つの「若さ」があることに気づきます。
しっかり噛める。
自然に話せる。
よく笑える。
口をしっかり閉じられる。
きちんと飲み込める。こうした能力は、皮膚だけでは作ることができません。
神経が働く。
筋肉が動く。
ミトコンドリアがエネルギーを作る。
血流が保たれる。
細胞同士が情報を交換する。
そのすべてが連携して、初めて「顔が機能する」のです。
「光を当てれば若返る」とは言いたくない
このシリーズで、特に大切にしたいことがあります。
私は、
「LUMIX 2を当てれば若返ります」
という単純な説明をしたいわけではありません。
科学的に証明されていないことまで効果として語るべきではないからです。
しかし一方で、
山中因子による部分的リプログラミング。
老化とミトコンドリア。
筋肉とマイオカイン。
咀嚼刺激と咬筋。
末梢神経とPBM。
これまで別々に研究されてきた領域を並べてみると、一つの興味深い仮説が浮かび上がってきます。
それが、
「光 × 神経 × 筋肉 × ミトコンドリア × マイオカイン」
です。
若さとは、「動けること」なのかもしれない
若々しい顔を思い浮かべてみてください。
肌がきれいなだけでしょうか。
よく笑う。
よく話す。
目元が動く。
口元が動く。
表情が豊かに変化する。
そこには、顔全体の神経―筋システムが生き生きと働いているという共通点があります。
だからこれからのアンチエイジングは、外から形を整えることだけではなく、
細胞を守る。
神経を守る。
筋肉を使う。
ミトコンドリアを考える。
噛む。
話す。
笑う。という方向へ広がっていくのではないでしょうか。
Functional Rejuvenation ――「機能的若返り」という考え方
私はこれを、
Functional Rejuvenation
――機能的若返りという視点で考えています。
「若返り」を単なる美容としてではなく、
細胞・神経・筋肉が、本来の機能をできるだけ長く保つこと
として捉える。
そして、
噛む・話す・笑う
という、私たちが毎日当たり前に行っている行為を、「若さを支える生命活動」という視点からもう一度見直してみる。
LUMIX 2によるPBMが、そのシステムの中でどのような役割を果たせるのか。
まだ分からないことはたくさんあります。
むしろ、分からないことの方が多い。
しかし、それこそが科学の面白さでもあります。
これから科学的なエビデンスを一つひとつ確認しながら、追いかけていきたいテーマです。
若さは、「若く見えること」だけではない
よく噛み、よく話し、よく笑えること。
年齢を重ねても、自分の筋肉で噛み、自分の神経で表情を作り、自然に笑える。
そんな「機能から考える若返り」が、これからの医療における新しいテーマの一つになっていくのかもしれません。
そして「光」は、その中でどのような役割を果たせるのでしょうか。
光 × 神経 × 筋肉 × ミトコンドリア × マイオカイン。